かつての日本では家族が一つ屋根の下に暮らし、地域社会の結びつきが強かったため、死を目の前にしても疎外感や孤独感を感じることなく、自分の死後のことを家族や地域社会に任せられるという意識を持つことができました。
そのため死に関しては「誰にでも訪れる運命」として受け入れられ、自身で考えるものではありませんでしたし、ましてや終活などという発想もない時代でした。
しかし現在の日本では核家族化がすすみ、世帯全員が高齢者ということも多く、以前のような地域共同体も崩壊しているのが実情です。
このような社会状況となった現在、高齢者は死を前にどう余生を生きるのか、そして死後の葬儀をどうするのかということについて自分自身で考えなくてはならなくなっています。
さらに自分らしく生きたいという価値観が広まったこともあり「終活」を希望する人が増え今や高齢者のスタンダードにつつあります。
では終活を始めるにはどこから手を付ければいいのでしょうか?
元気な状態で最後まで生きていられるに越したことはにのですが、平均寿命が男女ともに80歳を超える日本でそれを叶えられる高齢者はほんの一握りです。
80歳前後ではなんらかの介護が必要であったり、日常生活には問題がなくとも何らかの持病を抱えている方が多くなり、認知症や寝たきり状況になってしまったり、大きな病気になっ余命宣告を受けてしまったり、持病が急速に悪化したりというようなことが増えてきます。
そうなってから終活を始める方も多いのですが、そうなってからでは遅い,ということ側面も出てきます。。
そのことから終活を始めるタイミングの目安になるのが「健康寿命」と言われています。
2018年の厚生労働省の発表によると.日本の健康寿命は男性で72歳、女性で74歳となっています。
平均寿命が男性が81歳、女性が87歳となっていることを考えると男性で9年、女性では13年医療や介護が必要な状態になるということが考えられます。
そう聞くと、「そうなる前に終活を完了しておくことが必要」だとお考えになる方もいるかもしれませんが、実際には「完了する」よりも「把握」し、「整えておく」ことが終活の本筋なのです。
意思疎通が取れなくなった時、そして亡くなったあと必要になる手続き把握し、整理整頓して、それを引き継いでくれる人に伝える、ということなのです。
では本題に戻ります。
終活を始めるにあたり、何から始めてみるのがいいと思いますか?
一つひとつ思いついたものから始めるのもいいですが、まずは
この3つについて順番に整理しておくことが基本だとお考え下さい。
昔と違い、核家族化が進んだ現在、親とは離れて暮らす子供世帯が大半です。
そうした中、親が亡くなった後にお子さんが苦労するのが「遺品整理」です。
独居の高齢者が亡くなった後の自宅の中はその多くが「遺品」となり、処分するために何日も要したり、業者を使ったり。
亡くなった方のことを思うと捨てていいものなのかどうなのかも分からず、作業は心も体もお財布も疲弊します。
そうさせない為にまず自分の身の回りの物を整理しきちんと片づけておきましょう。不要なものは処分し、写真など思い出の品もコンパクトにまとめておくことが大事です。また死後まで残したものの処分の仕方なども書き記しておきましょう。
ものだけでなく契約中のサービスがないかも整理しておく必要があります。
電気、ガス、水道、携帯、固定電話など生活に必要なインフラ以外にも月額で利用しているケーブルテレビや宅配サービスで不必要なものは整理し、最期まで利用したいものについては亡くなったらすぐに契約を解除できるよう書き残しておきましょう。
天気のいい日や気候の良い春・秋に作業するのがおすすめです。
例えば突然、脳梗塞で脳死状態になってしまったときに、倒れたご本人と「延命治療はどうするか」という相談は出来ません。意識が回復する見込みがない場合などに、大切なあなたの命の選択を任されたご家族は苦渋の決断をしなければならないかもしれません。
辛い葛藤や決断をご家族にさせないために医療行為についての希望を記しておきましょう。
事前指示書を残すという形でその意思を尊重した医療ケアを行ってもらうことが可能です。
(事前指示書は国立長寿医療研究センターや医師会、日本尊厳死協会、日本公証人連合会などから無料公開されています。)
また亡くなってしまったあとの希望についても記しておきましょう。
例えば病院で亡くなった場合は死後数時間で遺体を運び出すよう促されますが、例えば長く地元を離れて暮らしていたお子さんがいきなり数時間内に葬儀社を吟味して選ぶというのは至難の業です。
最近は終活ブームもあり、生前見積もりを受けたり、互助会などのサービス契約を葬儀社と事前に結ぶケースも増えています。
葬儀社との契約がある場合は事前に家族に知らせておくことも大事です。
またお付き合いのあるお寺の有無や、宗派、お墓の有無または希望についても記しておきましょう。
現在は供養の形も様々ですが、遺されたご家族やご親せき、親しくされていた方々が納得する形を考慮することも必要です。
「相続税がかかるほど財産は残っていないから対策なんて必要ない」という方ほど注意が必要です。
実際にお話をしていくと「資産の全体を把握している」という方が意外と少なく、どの状態の資産がどういった形で誰にいつ相続されるのかまでは分かっていないという方も多いのが実情です。
金融資産(現金・預貯金・床証券・公社債など)の他、不動産(土地・家屋)、動産(宝石・貴金属・家具・自動車など)各種権利などについては民法上も相続税法上も相続の対象となります。意外に電話の加入権なども相続の対象となります。
また生命保険に関しても注意が必要です。例えばあなたがご自身を被保険者として加入した生命保険があるとして、お子さんのうち誰かを代表として保険金の受取人にして「死後受取金を兄弟で分けなさい」と言ってあったとしても民法上、その保険金は「受取人固有の財産」となります。トラブルにつながらないよう対策を考えておく必要があります。
さらに生命保険金は、民法上は相続の対象ではなくても相続税法は「みなし相続」として課税の対象になること、相続人の数によって非課税枠があることも知っておくといいでしょう。
それらを一旦書き出して、相続人になる方に分かるようにしておくのが大事です。
また一つ考えておく必要があるのが「葬儀代」です。
「葬儀代くらいは残している」「保険に加入しているから大丈夫」
ご自身の死後のことを考えて事前準備されているお客様も多くなってきました。
家族葬が増えてお葬式の費用は減少傾向にありますがますが、昨今は「香典辞退」されることも多く、ご遺族の負担金額だけにフォーカスすると以前と変わらない、または少し増えたという声が聞こえてきます。
なので、事前に見積もりをとるなどして規模や費用について考えておきましょう。
そのほかお寺さんにお支払いするお布施や飲食代なども地域によって様々なので把握しておく必要があります。
亡くなる事が事前に分かっている場合は、預貯金を少しずつ引き出しておくことで対応できますが、突然の場合は銀行口座も凍結され、死亡保険の申請も葬儀などが終わってからになるので一度ご遺族に立て替えてもらわなければならないことも。
人が一人亡くなった後は何かとお金がかかってしまうのも事実です。銀行口座の死後凍結については2019年7月に一部預金が引き出せるように改正予定ですが、残りの入院・医療費の支払いや寺院への支払い、遺品整理の費用など亡くなった後は思いのほか費用がかかるものです。
遺されたご家族の負担を考えすぐにおりてくる葬儀用の保険などの金融商品を検討してみたり、医療保険の内容を見直したり、できる準備を始められることをお勧めします。
以上終活を始めるにあたり大切な3つの柱についてお話ししました。
どれも大事なことですが、いろんな紙にばらばらに記していたのでは混乱を招いてしまいます。
これらをまとめて書いておくには「エンディングノート」を是非ご活用ください。
最近はいろんなエンディングノートが書店に売られています。
上に書いた3つの柱をしっかり残せる内容のものを選んでいただければよいと思います。
エンディングノートは鉛筆で書くことをお勧めします。
最初にも書きましたが、終活は終わらせるものではありません。
例えば70歳で始めた終活。2年後、3年後に変化する部分もあることでしょう。
その都度更新できるように、情報を整理整頓して分かりやすくしておきましょう。
終活は終わらせるより、まず始めることが大事です。
皆さんの終活のはじめの一歩の手助けができれば幸いです。